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本研究部会では中央切り欠き付き基礎試験片に対し、嵐モデル変動荷重下の疲労試験が行われた。平均応力が一定で荷重を繰り返す従来の試験では、それぞれの平均応力の下で、き裂は当然伝播する。しかし、平均応力が変動する場合には図3.2(a)、(b)のように、平均応力が一定の場合の伝播挙動とは異なる。初めの平均応力OMPaの下ではき裂は伝播しているが、平均応力80MPaを負荷した後、平均応力OMPaの下ではき裂成長は認められない。ところが、平均応力が0MPa〜80MPaの場合には、一80MPaの下ではき裂成長は観察されないが0MPaの下ではき裂成長が認められる。すなわち、高い平均応力が負荷された後、低い平均応力の下でのき裂伝播は著しく遅くなる。平均応力が一定でなく変化する場合、低い平均応力の下でのき裂成長がその平均応力が一定の場合に比べ著しく遅くなることは確かであり、定量的評価には負荷パターン、平均応力の組合せ、荷重値、平均応力の変化間隔に依存するが、これらのことは従来の知見では得られていない。図3.3には従来のき裂伝播解析法-Paris則、Paris-Elber則、Wheelerモデル 一とRPG荷重基準(7章参照)による推定結果と先の実験結果との比較を示す。定振幅繰り返し荷重の解析が主目的で荷重履歴の影響を考慮できないParis則、Paris-Elber則、過大荷重の影響のみを考慮しているWheelerモデルでは船体特有の荷重条件下のき裂伝播挙動を推定できないことが明らかである。RPG荷重基準では過大、過小荷重、平均応力変化によるき裂伝播の乱れを考慮できるぶん推定結果が向上している。大きな荷重がまとまって作用する場合と、これらが散発的に作用する場合のき裂伝播挙動は、後者では過大荷重の効果(遅延現象)が大いに働き、前者(船体に働く荷重タイプ、図3.1(b))に比べ、き裂伝播は遅くなる。したがって、従来の図3.1(a)の荷重履歴の試験結果では危険側の寿命評価をする恐れがある。以上に加え、過大荷重の効果、残留応力場でのき裂伝播など、本研究部会で得られた成果を用いれば航行中の船体に作用する荷重下でのき裂伝播推定を精度良く行える。

 

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図3.2嵐モデル変動荷重によるき裂伝播挙動

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図3.3嵐モデル変動荷重試験結果と解析結果との比較

 

 

 

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